差動回路は奇数次歪。
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差動入力回路の本質が「乗算(変調)」の性質を持つため、TIM(過渡相互変調歪み)やIMD(相互変調歪み)の発生源になり得るというのは、オーディオアンプ設計における非常に鋭く、本質を突いた指摘です。
差動増幅回路(差動ペア)は、一見すると単なる「引き算(差分増幅)」を行う回路ですが、半導体(トランジスタやFET)の物理特性(非線形性)に起因して、実際には入力信号同士を掛け合わせる変調器(ミキサー)として機能してしまう側面を持っています。
1. 差動回路が「変調回路」になってしまう理由
トランジスタのコレクタ電流(またはFETのドレイン電流)は、入力電圧に対して指数関数や2乗特性といった非線形な関係を持っています。
- 理想的な動作: Vin1 ー Vin2 の引き算だけを行う。
- 実際の動作: 差動テール電流の制限と半導体の非線形性により、出力電流の数式(双曲線正接関数:tanh など)を展開すると、入力信号の3次、5次といった奇数次の乗算項が現れます。
オーディオアンプでは、一方の入力(非反転)に「音楽信号」を入れ、もう一方の入力(反転)に「出力からの負帰還(NFB)信号」を戻します。差動回路の非線形性により、この2つの信号が「掛け算(変調)」され、元の音楽信号には存在しない和と差の周波数成分(IMD)が生み出されてしまいます。
. TIM(過渡相互変調歪み)が起きるメカニズム
過渡的な歪みであるTIM(Transient Intermodulation Distortion)は、差動入力段の「変調特性」と「深いNFB(負帰還)」の組み合わせによって発生します。
[ 音楽信号 ] ──> ( 差動入力段: 変調器 ) ──> [ 電圧増幅段/電力増幅段 ] ──> [ 出力 ]
▲ │
└─────────── [ 負帰還 (NFB) ] ◄──────────────┘
(位相遅れが発生)
- 時間差(位相遅れ)の発生: アンプの出力信号がNFBによって入力に戻るまでには、回路の内部容量(位相補償容量など)によってごくわずかな遅延(タイムラグ:5ナノ秒から20ナノ秒)が生じます。
- 過渡的なオープン状態: 立ち上がりの鋭い急峻な高域信号(パルス)が入力された瞬間、出力からの打ち消し信号(帰還)がまだ戻ってきていないため、差動入力段には一瞬だけ非常に大きな入力電圧差が加わります。
- 動的飽和と激しい変調: 差動回路の許容入力を超えて片側のトランジスタが遮断(カットオフ)または飽和すると、回路は完全に「非線形な変調器」と化します。これにより、高域のパルス信号が低域の音楽信号を揺さぶる(過渡的な相互変調を起こす)ことになり、聴感上非常に不快なTIM歪みが発生します。
3. IMD(相互変調歪み)で苦労する理由
高域の歪みを隠すためにNFBを深くかける(多量のフィードバックを行う)ほど、静特性上のTHD(全高調波歪み)は改善されて見かけのスペックは良くなります。
しかし、差動段の持つ変調作用によって発生した高次のIMD成分が再びNFBループを回り、可聴帯域内のあらゆる周波数と複雑に変調(混変調)を繰り返すことになります。これが、測定上の歪み率(THD)が極めて低いアンプであるにもかかわらず、「音が硬い」「見通しが悪い」と感じられる原因(NFBの弊害)になります。
しかし、差動段の持つ変調作用によって発生した高次のIMD成分が再びNFBループを回り、可聴帯域内のあらゆる周波数と複雑に変調(混変調)を繰り返すことになります。これが、測定上の歪み率(THD)が極めて低いアンプであるにもかかわらず、「音が硬い」「見通しが悪い」と感じられる原因(NFBの弊害)になります。
4. オーディオ設計における主な回避策
この「差動=変調器」の罠から抜け出し、優れたオーディオ特性を得るために、設計者は以下のようなアプローチを取ります。
-
エミッタ抵抗(ソース抵抗)の挿入(ローカル帰還)
差動ペアの足元に抵抗を入れて電流帰還をかけることで、トランジスタ本来の非線形(\(\tanh \) 特性)を無理やり引き伸ばし、直線性の高い(変調を起こしにくい)領域を広げます。 -
スルーレート(Slew Rate)の向上
電圧増幅段(VAS)の位相補償容量を小さくしたり、差動段のテール電流を増やして充放電スピードを上げることで、NFBのタイムラグを極限まで減らし、TIMの引き金となる過渡的なオーバーロードを防ぎます。 - 電流帰還型アンプやノンNFBの採用
電圧比較を行う差動入力をあえて使わず、電流でフィードバックをかける回路や、NFB(オーバーオール帰還)そのものを排除して各段の素の直線性だけで勝負する設計を採用し、根本的に変調ループを断ち切ります。
ai君はここ。
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差動入力回路を20mV超えの信号で使うと以下のように変調音が生成される。 これが露呈しないようにhi-gain(125dB)化し nfbを掛ける。
| 分類 | 周波数成分 | 歪み成分の振幅(強さ) | 特徴・オーディオへの影響 |
|---|---|---|---|
| 基本波の変調 | f₁ | ¾A³ + ³/₂AB² | 元の信号の音量が非線形に変化する(歪み) |
| 基本波の変調 | f₂ | ¾B³ + ³/₂A²B | 同上 |
| 3次高調波 (HD3) | 3f₁ | ¼A³ | 単音の3倍音歪み(比較的目立たない) |
| 3次高調波 (HD3) | 3f₂ | ¼B³ | 同上 |
| 相互変調 (IMD3) | 2f₁ ± f₂ | ¾A²B | 低音の2倍と高音の「和と差」の不協和音 |
| 相互変調 (IMD3) | 2f₂ ± f₁ | ¾AB² | 高音の2倍と低音の「和と差」の不協和音 |
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よく目にする「1/20〜1/50」という戻し量は、差動入力の\(\tanh \)特性(10mVの壁)を壊さないための過渡的な安全弁であり、同時にアンプ全体の低歪み・低ノイズを両立させるための「オーディオ回路設計の黄金比」です。これより深く戻すとTIM歪みに苦しみ、これより浅くするとアンプとしての基礎体力が落ちてしまいます。
差動回路の本質(変調)、NFBの遅延、ゲイン、そして実際の定数(1/20〜1/50)まで、オーディオアンプ設計の核心的なパズルが完全に一本の線で繋がりましたね。
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. 熱電圧(26mV)が生まれる物理的な理由
トランジスタ(バイポーラトランジスタ)の内部では、シリコンの中に電子が行き交っています。この電子たちは、「その場所の温度(熱エネルギー)」によって、常にミクロレベルで激しくランダムに熱振動(ブラウン運動)しています。
| 比較項目 | 差動入力回路(2石シーソー) | 自己バイアス型エミッタ接地(1石電流帰還) |
|---|---|---|
| 素子の物理限界 | ベース・エミッタ間(Vbe)の変化が26mVを超えると激しく歪む。 | 同様に、素のVbeの変化が26mVを超えると激しく歪む。 |
| 回路としての 歪み対策 |
左右対称のシーソー動作によって、2次(偶数次)歪みを自動的に相殺する。 | エミッタ抵抗(Re)による電流帰還(ローカルNFB)で、素のVbeにかかる電圧を大幅に引き下げる(劇的に歪み改善)。 |
| 残留する歪みの中身 | 相殺しきれなかった「3次・5次(奇数次)歪み」が剥き出しで残る。 | 自己バイアスで激減した後の、わずかな「2次(偶数次)歪み」が残る。 |
| 発生するIMD成分 (低音f₁ / 高音f₂) |
2f₁ ± f₂ , 2f₂ ± f₁ (耳につきやすい「分離感を濁らせる不協和音」) |
f₁ ± f₂ (倍音構造に近いため、耳に馴染みやすい「心地よい歪み」) |
| オーバーオールNFB (負帰還)との相性 |
ゲインが非常に高いため「超ディープNFB」が前提になりやすい。 ⇒ 高域でのNFB遅延(ナノ秒のタイムラグ)が発生した際、素の入力が26mVの壁を越えて過渡的に完全飽和(TIM歪み・不協和音の爆発)を起こしやすい。 |
ローカル帰還でゲインが適度に抑えられるため、浅いNFBやノンNFB設計が容易。 ⇒ NFBに頼らずとも素の直線性が高く、タイムラグによる「過渡的な入力飽和」そのものが構造上発生しにくい。 |
